2011年6月10日金曜日

 「日本流」にレッドカード 米国やドイツなどから厳しい「アマノ・ジャパン・バッシング」

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙に衝撃的な記事が掲載された。
(下記ブログ参照)英文記事はhttp://online.wsj.com/article/SB10001424052702304906004576371781243470772.html?KEYWORDS=Amano

日本語記事は
http://jp.wsj.com/World/node_247395


 日本政府がIAEAに送り込んだ外交官あがりの天野之弥・事務局長による「フクシマ」をめぐる対応に対して、主要先進国8ヵ国でつくる「G8」の間で不信感が募り、「原発安全基準策定」のプロセスから「アマノ IAEA」を排除する動きが、早くも始まっている、という。

 IAEAの天野事務局長は、本国政府と謀って「フクシマ」の事故の隠蔽を続けて来た……。そいいう男を、もう「原発の安全基準づくり」に関与させてはならない。新たな安全基準まで世界の人々から不信の目で見られてしまう……

 「アマノ IAEA」に対するこんな「不信任状」「告発状」が、よりによって「G8」の内部から突きつけられたわけだ。

 それではいったい、「G8」の、どこから批判が出ているのか?

 WSJ紙の記事はこう述べている。

 「3カ国で原子力を担当する政府高官は、このところ、IAEAは東京電力福島第1原発の危険性について迅速かつ正確な分析を行なわなかったと声高ではないながらも批判している」

 Senior nuclear-affairs officials from the three nations in recent weeks have quietly criticized the IAEA for failing to provide quick and accurate analysis of the danger posed by the accident at the tsunami-stricken Fukushima Daiichi plant.

 つまり「アマノ・ジャパン・批判」は、「G8」の加盟国の中の「3ヵ国」から上がってわけだ。

 となると、この「3ヵ国」がどこなのか気になるが、G8の顔ぶれ――カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ロシア、英国、米国――を見れば、およそ想像がつく。WSJが「米国」の経済専門紙であることを考え併せれば、よりハッキリ見えて来る。

 「トリオ」の一角はいうまでもなく、「フクシマ」のおかげで地方選で大敗北を喫し、180度の政策転換を迫られたドイツ(のメルケル政権)だろう。

 ドイツが日本を批判……これは日本政府として当然「想定内」のことだろうが、ドイツだけが「アマノ・ジャパン」を非難しているわけではない。

 実は頼みの「同盟国=米国」までがドイツをともに不信状を突きつけているので、日本政府当局者にとっては、このWSJの記事は超・衝撃的なのだ。

 なぜ「米国」が「アマノ・ジャパン・バッシング」に加わっている、と言えるのか?
 記事にもあるように、米国は「公式の場」ではIAEA支持を表明している。その米国が「バッシング・トリオ」の一角を占めていると、なぜ言えるのか?

 これは拙著の新刊『世界が見た福島原発災害――海外メディアが報じる真実』(緑風出版)の「第10章 ウィキリークス」でも指摘したことだが、米国はもともと、原発安全対策をないがしろにする、日本政府がIAEAに送り込んだ幹部職員に対して、根深い不信感を持っていることがひとつ挙げられる。

 ウィキリークス国務省機密電で明らかになったところでは、たとえば通産OBの谷口富裕IAEA元事務局次長(安全担当責人者)を米外交官が厳しく批判している。

 しかしウィキリークスが暴いた、一連のウィーン発機密電はいずれも「フクシマ」以前のもの。「フクシマ」が起きた今なら、その「ジャパン・バッシング」は怒りさえ帯びたものになってはずだ。

 こうした米側の「アマノIAEA」、および日本政府に対する不信感は、米原子力規制委員会「フクシマ」小委員会(5月26日付)の議事録に散見される。
http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1114/ML11147A075.pdf


 たとえば、その60頁で、参加者の一人は、こう述べている。

 情報公開は全面的ではない。これからもそうだろう。IAEAのようなところが(日本を含む)どんな国からも一連の事実を集めることができれば、もっとうまく行くはずなのに……
 (…… and not yet on getting that information out to everybody. I think that will happen over time. I think it's done more effectively if one organization like IAEA does it versus every country trying to get their set of facts.)

 もはやこれ以上、「状況証拠」を挙げる必要はないだろう。
 米国が「アマノ・ジャパン・バッシング」に加わっていることは、最早、明らかなことである。

 それでは米国、ドイツに次ぐ、第3の国はどこか?

 これは、WSJの記事の以下のくだりに「答え」が隠されている。

 「特に先進2カ国の政府高官はIAEAが先週公表した福島原発事故に関する調査報告書の要約の一部について異論を唱えている。IAEAは報告書の中で、日本の危機管理が「模範的 」であるとしたが、この評価については日本の内外で批判が高まるものとみられる」
 (In particular, government officials from two Western countries disputed parts of a summary of IAEA findings on the Fukushima nuclear accident released last week, in which the U.N. agency found the Japan's crisis-management to be "exemplary," an assessment many critics inside and outside Japan would dispute. )

 ここでいう「特に」とは「3ヵ国のなかで特に」という意味だが、「1ヵ国」だけが、あの、歯の浮くような、「ヨイショ報告書」の批判の輪に加わっていない。

 この報告書批判を避けた「1ヵ国」とは、当然ながら英国だろう。フクシマを訪れ、報告書をまとめたIAEA調査団の団長は、英国の原子力監察官だから、これだけは非難の声を揃えるわけにはいかない。 
 こうしてみると、「アマノ・ジャパン・バッシング・トリオ」とは米独英の「3ヵ国」ということになるが、ほかの国が「アマノ・ジャパン」支持かというと、まったくもって、そうではない。

 たとえばWSJの記事には、こうある。

 フランスのナタリー・コシウスコ=モリゼ環境担当相は……「……我々はIAEAの強化を望んでいる。IAEAのトップは我々が出した結論を現実のものとしてもらいたい」とも語った。
 (……said French Ecology Minister Nathalie Kosciusko-Morizet, who headed up the meeting. "On the contrary, we want to reinforce it and allow for their director to transform our conclusions into reality." )

天野事務局長や日本政府の当局者としたら、「フランスよ、お前もか」と嘆きたい気持ちになるだろうが、それが世界の現実である。

 G8のほかの3ヵ国、カナダ、イタリア、ロシアも、(WSJが確かめていないだけで)きっと米独英仏の4ヵ国と同じで考えであろう。

 「アマノ IAEA」は「フクシマ」の事故情報を速やかに国際社会に開示しなかったことで世界的な批判を受けているが、飯舘村の放射能測定値をめぐっても、いったんフローリー事務局次長(前述の谷口氏の後任)が「IAEAの避難基準の倍」と発表しておきながら、そのあと、「匿名のIAEAの当局者」が、日本のメディアに限って、「測定値を平均したら避難基準以下になりました」と「訂正発表」する、とんでもないことを仕出かしている。(前掲、拙著、「第二章 飯舘村」参照)

 日本政府お得意の「報道統制」で国際社会も騙し通せると思ったのが運の尽き。

 天野氏に対する事実上の「退任勧告」ともいうべき WSJの報道は、日本政府に対する国際社会からのレッドカードである。


机の上の雲 2011/6/9 (引用)
http://onuma.cocolog-nifty.com/blog1/2011/06/post-2197.html

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