震災後、首都圏を脱出する人の動きが続いている。母子の疎開だけでなく、東から西への転職市場も活性化。人材の流出は、一時的な現象にとどまらないかもしれない。
「これまで転職地域を首都圏に限定していた技術者が、対象を全国に広げ、内定するケースが目立っている」
転職支援サービス大手のリクルートエージェントで「製造業・技術職」のキャリアアドバイザーを務める中尾公則氏は、震災後に関西地区や東海地区への転職実績が増えている現状を明かす。同社の調べによると、首都圏の技術者が関西の企業に転職した数は、5月実績で前年同月比約2倍、しかもその勢いは今も衰えていないという。
地域をまたいだ転職が増える理由はもちろん、東日本大震災だ。震災後、東京電力の福島第1原子力発電所の事故問題で、放射性物質への不安が高まっている。関西方面への“疎開”を決めた家族は少なくない。
もともと、製造業の技術者の引き合いは根強い。技術者は1つの企業に勤め続ける割合が高く、地域を超えた転職希望自体があまりない。そのため、求人倍率が高い状態が常態化していた。
「技術職は関西では求職者1人につき求人企業数が4.5社、東海では3社以上ある。首都圏では1.5社程度にとどまる」と前出の中尾氏は言う。
2008年秋のリーマンショック以降は、世界的な不況から首都圏の完成品メーカーを中心に人員が過剰気味だった。一方、中堅・中小の自動車部品や電子部品メーカーが多く集積する東海地区や関西地区では海外輸出も含めて仕事が多く、人員不足が続いていた。だが、それでも技術者の安定志向は根強く、地域間の需給ギャップは埋まらずにいた。それが震災と原発事故で一気に風向きが変わったというわけだ。
家庭の意見の変化も、こうした「疎開転職」を後押ししている。これまでなら、「妻の友人関係が壊れる」「子供の養育環境を維持したい」などといった家庭の意見が、地域をまたいだ転職の障壁になっていた。
待機児童が突然ゼロに
ところが、原発事故が長引くにつれ、状況が変わる。放射能汚染が子供に与える影響が家庭の主要な関心事になり、子供の健康を不安視した主婦が、むしろ率先して疎開転職を希望するようになったのだ。
そんな事情を裏づけるような現象が、既に表れている。「待機児童」が常態化していた、東京都内の保育施設である。
東京都文京区は保育園への入所を待つ乳幼児である待機児童が多いことで有名だ。そこで異変が起きた。
「0歳児、1歳児クラスが定員割れを起こしている」と文京区内のある認証保育園の担当者はこう明かす。待機児童が多い文京区では、保育所がすぐ定員に達する状態が続いていた。
ところが、震災以降、保育園に内定していた親からの辞退が相次いだ。多くは一時的な疎開型だが、中には完全移住と見られるケースもあるという。
東京都港区・高輪地区の認可保育園では、4月の入園予定だった幼児が、一時避難を理由に10人単位で欠席した。認可保育園の場合、2カ月以上欠席をすると退園処分になるため、6月に入って園児が戻り始めたものの、「戻ってこない子供たちもいる」(高輪地区総合支所)。
こんな事実もある。母子疎開をサポートするインターネット上のサイト「hahako」では、既に何組もの母子がサイトを通じて一時避難した。そうした母子の中には、「最初は一時避難の予定だったが、最近は真剣に移住を希望する人も増えている」とhahako管理人の木田裕子氏は語る。
首都圏では企業活動もおおむね復活し、生活もほぼ元通りに戻ったように見える。だが、そんな表層とは裏腹に、首都圏を脱出する動きは、今も静かに続いている。
日経ビジネス 2011年6月13日号15ページより
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110610/220678/?P=1
この記事、これでも控えめに抑えて書かれていることと、記者さんが頑張ったのだな、ということがとても良く伝わってくる。記者さんありがとうございます。
まだまだ福島原発事故の影響である放射能から避難する人を悪者みたいに罵る人がいる様だが、本来であればその方がおかしい。
国家や我々が最も尊ばなければならないのは、国民の生命である。
少しでも安全なところに行こう。
被ばくの影響は、子供の遺伝子にまで影響を及ぼす可能性があるのだから。
0 件のコメント:
コメントを投稿