2011年5月24日火曜日

「地元愛」で進まぬ再就職 被災者雇用拡大も二の足

 東日本大震災によって被災地の雇用悪化が続いている。被災地に工場などの事業所を持つ企業の中には地元雇用の縮小を余儀なくされるケースが相次いでいるためだ。被災者雇用に名乗りを上げる企業も増えているが、求職者の地元志向も手伝い、支援企業側が用意する都市圏での再就職に踏み切れないなど、「雇用のミスマッチ」も顕在化しているようだ。

 「業務で英語は使いますか」

 「営業に女性はいますか」

 17日に仙台市で開かれた外資系食品大手「ネスレ日本」(神戸市)の採用説明会では、参加者から活発な質問が飛んだ。

 同社は1995年の阪神・淡路大震災で本社ビルが倒壊した経験から、今回の震災で被災した学生らを対象に「東北募集枠」を10人程度設定した。東北での説明会は初めてだったが、約50人の参加者からは、「助かる」などの声が聞かれた。

 被災者を積極的に雇い入れようとの機運は高まっている。

 厚生労働省によると、被災者向け求人件数は4月15日には約6400件だったが、5月6日には約1万1000件まで膨らんだ。求人数換算で約3万3000人分。被災した岩手、宮城、福島県の求職者数約3万1000人の就職先をすべてまかなえる求人枠だ。

 被災地の事情に配慮した雇用提案も少なくない。今年度の中途採用で約2500人の採用を計画するSGホールディングスは、傘下の佐川急便で仮設住宅への引っ越し作業員など100人を現地で採用する。新潟県の菓子メーカー亀田製菓も、学校卒業後3年以内を中心として10人程度を正社員にする際、入社までの一時支度金として10万円を目安に費用面での便宜を図る。

 しかし、旺盛な求人とは裏腹に、被災者の再就職は進まない。大きな要因は、求職者の強い“地元志向”にある。

 「できるだけ近い場所で働けないですか?」。宮城県内のハローワークの相談担当者は、求職者のほとんどが開口一番、こう話すのを聞く。通常なら都会へ羽ばたきたいはずの若者でさえ、震災以降は近場での就業を希望する人が目立つという。

 ◆ドンキ、コミュニティー丸抱え作戦

 「県外なら条件のいい仕事もあるのに、相談員としては歯がゆい。でも、家族を残して働きに出られないし、復興にも関わりたいのだろう」。担当者は求職者の心情を推し量る。

 結果、勤務地が首都圏になる求人の反応は鈍い。東京都内の部品加工会社「豊岡製作所」や金属加工会社「オーティエス」の2社は、共通の求人ウェブサイトで採用枠を明示しているが、5月中旬までに1人の採用にも至っていない。

 離職にも歯止めがかからない。宮城県女川町の加工工場を津波で失った日本水産は、東北以外へ工場を移すにあたり、地元社員に個別に転勤を提案したところ、「地元を離れたがらない人が多く、(契約社員の)契約を3月末までで終了した」(佐藤泰久副社長)という。

 こうしたミスマッチについて日本総合研究所の山田久主席研究員は「震災が奪ったのは単なる働き口ではなく、職場というコミュニティー。県外に再就職先があっても、コミュニティーがないから不安になる」と、被災者雇用の難しさを語る。

 そんな中、コミュニティー丸抱えの雇用確保に動くのが、ディスカウント大手のドン・キホーテだ。東京都国分寺市に6月にオープン予定だったGMS(総合スーパー)形態の「MEGAドン・キホーテ」を急遽(きゅうきょ)、ホームセンター型の「ドイト」に業態変更。休業している「ドイト仙台若林店」の旧従業員をアルバイトも含めて雇用する。オープンする新店は“古巣”と同業態に加え、同じ顔ぶれの同僚が集う。従業員も「みんなで行くなら心強い」と転勤に前向きで、3分の1は新天地に移る見通し。同社は2年後の仙台復帰を確約するほか、引っ越し費用全額と一部家賃の助成など全面的にバックアップする構えだ。

 日本総研の山田氏は「ハローワークをはじめ、求職が個人単位であることの限界が震災で浮き彫りになった。求人数の多い企業と地域全体のマッチングなどを自治体などが積極的に行うことが必要になっている」と話す。(佐久間修志)

Sankei Biz 2011/5/24 05:00 (引用)
http://www.sankeibiz.jp/econome/news/110524/ecd1105240504000-n1.htm

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