事故収束までの「ロードマップ」には、決定的に抜け落ちている視点がある。現場で作業にあたる東電熟練社員の被曝量が、どんどん蓄積していくことである。このままだと、現場に人がいなくなる。
■どんどん被曝していくので
手元に、東京電力の幹部が「社内討議用」として作成した一通の文書がある。
文書のタイトルは、「福島第一原子力発電所安定化に向けた被ばく管理について」とされ、【重要】と付記されている。
〈福島第一原子力発電所安定化に向けた工程を遂行するために、当社では保全・土建関係の要員を中心にした300人規模の復旧班を編成し、対応体制を構築。
・これまでの被ばく量に加え、これらの要員が高被ばく線量となる見込み。
・このうち保全要員については、他の事業所からの要員を交替・補充し、全社要員の2/3にあたる600人体制で実施した場合には2012年1月に、全社要員(950人)を総動員した場合には2012年11月に、それぞれ平均100ミリシーベルトを超えると予測〉
東京電力は4月17日に「福島第一原発・事故の収束に向けた道筋」(通称・工程表)を発表し、6~9ヵ月後に各原子炉を冷温停止状態に持っていく、としていた。
内部文書によると、現在その作業にあたっている「復旧班」の保全・土建関係社員が近々、累積の被曝量がかなり高く危険な状態に至ると懸念している。
問題は交替要員だが、その数にも限りがある。とくに問題なのは保全を担当する社員で、ほかの発電所で同様の作業に従事する社員をかき集め、全社の3分の2にあたる600人を福島に送り込んでも、'12年1月、つまり来年早々にはその全員が累積被曝量100ミリシーベルトを超える。
仮にほかの発電所の保全を無視して、社内の要員のすべて=950人を福島第一に送り込んでも、来年末にはやはり全員が高被曝者となる。
それならば、あらたに保全要員を養成すればよいのでは、と考えるが、そう簡単にいかないと文書は指摘している。
〈現場作業に精通した熟練社員は平均値以上の被ばく線量となる見込み。(これらの熟練社員は最短でも10年の育成期間が必要)〉
熟練社員の養成には、10年もの時間が必要だというのである! 作業に精通した社員ほど、前線で働く機会がどうしても多くなり、その分、被曝量も増える。その先のシナリオはどうなるか—文書の暗示するところは、背筋の寒くなるような事態だ。
〈600人、950人いずれの体制でも被ばく線量に関わる緊急時の扱い(250ミリシーベルト)は遵守できるが、柏崎刈羽原子力発電所などを維持する為の要員は通常時の扱い(100ミリシーベルト/5年)に抵触するため、その後放射線管理下の業務に全く従事できなくなり、発電所の安定運転が確保できなくなる〉
厚労省は原発で働く作業員に許容される被曝量を、福島第一の事故復旧作業に限り、250ミリシーベルトに引き上げたが、他の原発ではいまも100ミリシーベルトが上限許容値である。仮に社内の全保全要員を福島に投入すると、早晩他の原発の「安全運転」が不可能になる。それを避けようとすると、今度は福島の復旧作業に割く要員がいなくなる。
実はいま、東電社内でもっとも懸念されているのが、この人員確保の問題なのである。
「福島第一の吉田昌郎所長は、東電本店が政権の圧力のもと勝手に工程表を発表したことに怒りを感じています。『(工程表に合わせるための)無理な作業はしない。(工程表を)気にしていない』と周囲に語っている。要するに、相手にしていない、ということです。
4つの原子炉のうち、1号機で使用されていた燃料はかなり古く、溶融はしていても再臨界の恐れはほとんどない。12日には、燃料が溶け、圧力容器に穴が開いていることが発覚したが、外付けの冷却装置の工事は進んでいます。そのあと、3号機、4号機と進み、最後に問題の2号機ということになるでしょうが、そこまでにどのくらいの時間がかかるか見当もつかない。工程表が言うような、一律で6ヵ月という単純な話ではないんです」(福島第一の内情を知る関係者)
■働ける人がいなくなる
吉田所長ら「現場」の感触としては、収束までには工程表で示された以上に時間がかかるのは確実。その間に、熟練社員の被曝量はどんどん上がっていく。
「政府によって250ミリシーベルトの被曝まで許容されていますが、吉田所長は社員の安全や今後のほかの原発での作業を考えると、100ミリシーベルトを超えた者は交代させたいと考えている。実際、所長判断ですでに福島を離れた者もいます」(前出の関係者)
吉田所長本人は、事故収束まで現場で腰を据えて頑張るという決意を固めているようだが、ほかの社員には必要以上の被曝をさせたくない。収束までの時間が長引けば長引くほど、「要員が底をつく」Xデーが近づくことになる。
4月22日に福島第一原発内に入り、吉田所長と直接、協議した独立総合研究所社長の青山繁晴氏はこう話す。
「作業員の確保は、いま吉田さんがもっとも心配している事柄のひとつです。津波対策用の防波堤と、5号機、6号機地下の湧き水の問題は公になり、対策が始まりましたから、次はこの問題を心配しています。これについて、一緒に知恵を出し合いませんか、という相談も受けています。
私が現場に入ったときも、明らかに高齢の方がいました。定年でいったん辞めたが、自分の志で戻ってきたということでした。今後は、こうしたOBや、スリーマイル事故の経験のあるアメリカをはじめ外国人技術者の力を活用することも検討しなければいけないでしょう」
社内文書では、社員だけでなく協力企業の作業員確保についても先行きを懸念している。
〈協力企業の状況
・年度内は各社が設定した緊急時の被ばく管理値内で収まる見込み。
・福島第一安定化に要する要員は今年度内1万4400人程度(一日平均1200人)と想定。
・被ばく線量を平均50ミリシーベルトに収めるためには、さらに1万9500人程度の補充要員を加えたローテーションが必要。
・当社と同様に、他の現場では通常時の扱いが適用されて、作業ができなくなることから、雇用の継続に不安を持つ社員が多い、代替要員の少ない作業指導者(現場代理人)の被ばくをいかに抑えるか苦労しているとの意見が多数〉
やはりここでも、被曝許容量を超えてしまうことで他の施設で働けなくなる不安、さらに「作業指導者」、つまり現場指揮官の被曝量がより高くなるため、それを避けるのに苦労しているという。
対策としては工事の遠隔化、自動化、被曝量を細かく管理して、2~8交替制をとって長時間、高い放射線を浴びることを避ける、などが考えられているという。しかし、いくらこうした対策をとったとしても、現場にいる時間が長くなれば被曝量が蓄積してくるのは避けようがない。前出の青山氏が指摘するように、すでに東電社内では外国人労働者や、OBの徴用などが検討されている。
■事故は現場で起きている
「外国人といっても、誰でもいいというわけではなく、ちゃんと英語が通じて、ある程度の技術力があり、当社の指示に従って働くことのできる作業員。また、OBもあくまで自由意思での参加になると思いますが、10人のうち1人くらいが手を上げてくれれば本当に助かるんですが・・・」(東電幹部)
5月6日から福島第二原発内の宿舎に入り、東電社員らと面談した愛媛大学大学院・谷川武教授は現状をこう報告している。
「4月25日付で、福島労働局から、吉田昌郎所長に対し指示が出ています。内容は、(被曝)線量が100ミリシーベルトを超える方、もしくは1ヵ月間、原発で緊急作業に従事した方に対して、速やかに健康診断をするように、ということです。診断の中身は、血液検査もありますが、心身の両面について留意するように、ということでした。
私たちはその指示に基づいて、診察をしました。今後は産業医の先生方のフォローをお願いしたい」
宿泊所となっている福島第二の体育館は540畳の広さがあり、そこに200~340人が泊まっている。基本は4勤2休で、風呂などの設備はようやく改善され、近く30台のシャワー設備が体育館に設置される予定だという。
今後は暑さ対策で冷房を入れる必要があるが、外気を取り込まないで温度を下げる仕組みを作れないか、検討されている。谷川教授によると、いま心配されているのは疥癬虫などへの感染だという。
「4月に発表された工程表は、東電本部の事務方と、細野豪志首相補佐官らが中心になってまとめた『政治文書』。現場の実情が考慮されていません。日々被曝し、線量が蓄積している社員の替えは、なかなか見つからない。そのことを考えずに、机上の空論だけ操ってもうまくいくはずがないでしょう」(別の東電幹部)
現実から目を背け、耳触りのいいことだけを公表しても、もう誰も信用しない。欲しいのは、正確な情報と、冷静かつ合理的な対応力だけである。
週刊現代 2011年05月23日 (引用)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/5678
核燃料が解き放たれた時、我々人類は皆、無力になる。
人類の英知の粋を集めても、核エネルギーの前では、我々は何もできないのである。無力である。
これが、原発が暴走した時の本質であり、否定できない真実である。
我々人類の英知の粋を集めなくとも、原子力のない世界で何不自由なく快適な生活を享受できるが、これをよしとしない勢力があり、我々が恐れるモンスター(原子力)に固執するある勢力が存在し、我々は、その勢力が強いる、その不条理の中で、不自由な生活をさせられているのである。
問題があっても解決策が見いだせない状況とは歯がゆいことだ。
本当にどうにかしなくてはならない。
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