2011年5月22日日曜日

これが真実だ!「止まらない!福島第一原発建屋内の汚染水地獄」 5月になって内部に入った作業員が激白

 そこは30分もいられない惨状だった!いたるところに水たまりがあり、天井からは不気味な水滴が落ちてくる。蒸し暑い雨合羽での作業は遅々として進まず、1時間の被曝量は9ミリシーベルトにも達した。さらに、建屋に亀裂が生じ地下水が流入している可能性も高まっている。

「安全だなんて、とんでもない! 建屋内に入って、あまりの惨状に驚きました。内部は真っ暗で、ヘルメットにつけた小型懐中電灯では足下もよく見えません。あたりには瓦礫や天井から落ちてきたと思われるアーム、マンホールの蓋などが散乱しているんです。

 気をつけて歩かないと、転んでマンホールの中に落ちてしまいます。最も恐ろしいのが、水です。いたるところに水がたまっている。事故以前には、目にすることのなかった不気味な光景です。おそらく高濃度の放射性物質に汚染され、触れただけで大量被曝してしまうのでしょう。そうした〝死の水〟に触れないよう、内部では慎重にゆっくり移動せざるを得ないんです」

 本誌の取材に対し興奮気味に語るのは、福島第一原発内で働いていた作業員の橋本貴之氏(30代、仮名)だ。橋本氏は5月になってから福島第一原発に入り、3号機のタービン建屋内で数日間作業をした。彼が「あまりの惨状」と形容したのは、その3号機建屋内の現状である。

 5月5日、1号機原子炉建屋内に冷却設備を設置するために、3月12日の水素爆発後初めて作業員が入った。

 東京電力(以下、東電)は5月7日に「原子炉建屋内の放射性物質濃度はマスクを着ければ作業できる程度まで下がった」と発表したが、5月9日に同建屋内で30分ほど仕事をした東電社員らの被曝量を測定すると、最大で10・56ミリシーベルトを記録したという。橋本氏が続ける。

「通常なら原子炉建屋内で数時間作業しても、浴びるのはせいぜい0.1ミリシーベルトです。それがたった30分で10ミリシーベルトも浴びたら、半月働いただけで、国が作業員の年間被曝限度量に定めている250ミリシーベルトを超えてしまいます。

 でも、これほど高い放射線量を記録しているのは、核燃料が保管されている原子炉建屋だけではありません。

 東電の社員は『危険ではない』と言いますが、実は発電用のタービン建屋でも、高濃度の放射線が出ているのです。私が3号機のタービン建屋内で作業したのは、休憩を挟んで1日1時間ほどでしたが、被曝量は9ミリシーベルトに達しました。『マスクを着ければ作業できる』というような、安全な場所ではないんです。さらに東電からは『アララベンチジャンボ』という排風機を設置すれば大丈夫と説明を受けました。でもそんな装置では一時的に放射線量が下がったとしても、常時安定した状態が保てるとは思えません」

根本的に崩れる作業工程

 作業員を悩ますのは、大気中の放射性物質だけではない。橋本氏が冒頭で話したように、建屋内にはいたるところに汚染された水がたまっているのだ。

「1F(福島第一原発の通称)には『水を見たら逃げろ!』という貼り紙が数多くあり、元請け(親会社)の所長からは『不審な水を発見したらすぐに報告するように』と日頃から言われています。私たち原発作業員にとっては、水イコール汚染水なのです。現在の建屋内は、核燃料を冷やす注水などのために水浸しです。

 天井からは、不気味な水滴が間断なくポタポタと落ちてきます。私たちは『アノラック』という、水分も空気も通さない特別な雨合羽を着なければなりませんでした。完全防護服にマスクを着け、さらに蒸し暑い雨合羽を着るのです。少し動いただけで汗だくになり、30分で息苦しくなります。水を除去しなければ、建屋内で作業するのはとうてい無理です」

 2号機では、タービン建屋内の汚染水を第一原発内の集中廃棄物処理施設に移送する作業が、4月19日から続いている。だが建屋の地下室の水位はほとんど下がらず、いまだに3.1mほどの高さがあるのだ。同様に地下室に高さ3.2mの水がたまっている3号機でも、立て杭の水位が上がっている。これらは、冷却用の注水の他に、地下水が建屋内に流れ込み、新たな汚染水となっている可能性が高いことを示している。元内閣府原子力委員会委員で中部大学教授の武田邦彦氏も指摘する。

「大地震で建屋内に亀裂が生じ、そこから地下水が流入しているのかもしれません。そうだとしたら、大変な事態です。まず流入を止めなければならず、東電が4月17日に発表した最短で6~9ヵ月のうちに原子炉を安定的な停止状態にするという工程スケジュールは、根本的に崩れることになります。

 地下水が流れ込んでいる亀裂を塞ぎ、天井から落ちてくる水滴を防ぐためにシートを貼る作業などは、無人ロボットではできません。大量の放射性物質が放出される建屋内で人間が作業しなければならず、少なくとも予定の2倍の時間がかかると思われます」

 さらに武田教授は、作業員の恐れる汚染水の凄まじさについてこう解説する。

「汚染された水の濃度は、大気の1000倍にのぼります。建屋内の水たまりも、数百ミリシーベルトから1シーベルトの放射線量があるでしょう。もし1シーベルトの水たまりに足を突っ込み直接皮膚に水滴が付けば、大火傷を負ったような状態になり、皮膚の再生機能も破壊されます。防護服が水滴で濡れ、ガンマ線を出す放射性物質(セシウム137など)がその水滴に大量に含まれていれば、被曝してがんを発病する可能性もあるのです」

 実際に建屋内では、公表されない事故が相次いでいる。前出の橋本氏が明かす。

「4月下旬に3号機のタービン建屋内で電気機器の設置作業をしていた作業員が、暗闇の中で足を滑らせ脚立から落ちる事故があったそうです。彼はすぐにヘリコプターで、1Fからどこかへ搬送されました。その作業員が水に触れてしまったかどうかは分かりませんが、搬送先やケガの症状など、その後東電からは一切説明がなかったとか。その他にも、建屋内で作業をしていて気分が悪くなり、近くの医療施設へ送られた作業員は20人以上になると言われています」

 常に大量被曝の不安にかられながら、福島第一原発の建屋内で仕事を続ける作業員たち。だが本誌の取材では、これまで大半の作業員が「事故発生以降も東電や元請けから特別な手当は約束されていない」と答えていた。橋本氏も、この点を親会社の所長に問い質(ただ)したという。

「建屋内の作業は、屋外の作業より危険性が高い。年間限度量の250ミリシーベルト以上の放射線を浴びたら、原発で仕事ができなくなってしまいます。そこで『手当はある』と以前から話していた所長に、今回の作業中に『口約束だけでは困る』と詰め寄ったことがあるんです。

 すると所長は、1枚の紙を出してこう言いました。『大丈夫だ。250以上浴びたら、東電が5年間の生活を保障すると約束している。大量被曝した時は、東電が作ったこの書面にサインすればいい』と。でも作業員には、積算の被曝量など知らされていないんです。そんな有名無実の約束しかできないのなら、まずは安心して作業ができる環境を作ってほしい」

 止まらない〝死の汚染水〟を封じない限り、福島第一原発の惨状は改善されない。


フライデー 2011年05月20日(金)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/5167

0 件のコメント: