◇「GEの事故」強調 アレバ、米でロビー活動
東京電力福島第1原発事故から1カ月足らずの4月初旬、米ワシントン。水素爆発した過程などを図解したカラーの冊子(A4判33ページ)が、米連邦議会や政府関係者の間に出回った。
後に「フクシマ・ファイル」と呼ばれるこの冊子は、フランスの原子力大手アレバ社のロビイストたちがばらまいたものだった。
原子炉は「米ゼネラル・エレクトリック(GE)社製マーク1」。そう強調したうえ、内容は臆測を交えていた。実際には起こっていない貯蔵プールの使用済み核燃料の溶融までも記述。最終ページには「東京電力は、ほとんどの情報を開示していないようだ」と記した。
事故対応に追われる日米両政府やGE関係者は衝撃を受けた。ロビイストたちは、冊子を配る時に「事故は日本特有のもの」と口にし、アレバ社の原発では起きないと言外ににおわせていた。「フクシマ・ファイル」は、原発ビジネスの競合相手を陥れる「工作」ととらえられた。
サルコジ仏大統領が来日したのは、この冊子が出回るのとほぼ同じ3月31日。サルコジ氏は菅直人首相との会談で「必ず日本は再生する」と語り、全面支援を約束。仏ドービルで5月26日に始まる主要8カ国首脳会議(G8サミット)で日本の首相として初めての冒頭演説を要請した。
「中傷」と「支援」を使い分けたかのような手法に、日本政府関係者は「仏は汚い」と憤った。だが、仏は事故の「特殊性」を強調することで原発ビジネスへの影響をできるだけ抑えつつ、震災前は優位にあった「GE・日立」「東芝・ウェスチングハウス」の日米連合を逆転する千載一遇の商機ととらえていた。
「(アレバ社員を)あなたの部下として使ってください」。サルコジ氏の前日に訪日したアレバのロベルジョン最高経営責任者(CEO、6月末退任)も海江田万里経済産業相との会談で必死に売り込んだ。アラブ首長国連邦の原発入札で韓国に敗れ、自社の技術力を世界にアピールする思惑もあった。
対照的にGE社のイメルト会長兼CEOの動きは鈍く、来日はロベルジョン氏より遅れた。経産省幹部は「原発の製造責任を追及されるのを恐れ、当初は政府関係者に会うことすら嫌がった」と明かす。
イメルト氏は原子力事業で合弁している日立製作所の説得を受け、4月4日に海江田経産相と会談。事故処理に全面協力する意思を示したが、会談後に記者団から製造責任を聞かれると「原子力は長年安全性を保ってきた」とかわした。
フランスの攻勢に押されたのは日本の原子炉メーカーも同じだった。福島第1原発の汚染水の浄化に必要な装置の納入を巡り、アレバ側は「どこよりもいいものを持っている。しかもすぐに納められる」と東電に売り込んだ。アレバに先を越された格好の日本のメーカー幹部は「耐え難きを耐えるしかなかった」と語った。
受注に成功したロベルジョン氏は6月末の退任を前に「原発の低価格競争時代は終わった」と語り、同社製への自信を隠さなかった。
新興国を中心に世界では180基以上の原子炉が建設・計画中で、市場規模は1兆ドル(約80兆円)。福島事故後も原子力エネルギーの需要は減ることなく、国際ビジネスの激しい競争が早くも再燃している。
毎日新聞 2011年7月4日6時0分 (引用)
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110704ddm001040090000c.html
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