2011年8月30日火曜日

永続化する帰宅制限 被災住民に募る疑念

「国はやっぱり、原発の周辺に最終処分場を造るつもりなんじゃないか。帰宅制限の延長はその布石だと思ってしまう」

 東京電力福島第1原発が立地する福島県双葉町の主婦、吉田サダ子さん(76)はそう話す。自宅は原発から約4キロ。現在、福島市内の仮設住宅で夫の義雄さん(85)と2人で暮らす。静岡県に嫁いだ娘から同居の誘いもあったが、義雄さんの「双葉が恋しい。先が長くないなら、生まれ育った故郷の近くで死にたい」という言葉で、仮設住宅への入居を決めた。

 サダ子さんによると、住民らの最近の話題はもっぱら帰宅制限の延長。「二度と故郷へ帰れない」と考える人も増えているという。

 「普通のごみ処分場でさえ反発が起きるのに、汚染ごみを引き受けてくれるところなんてない。国は私らに黙って(建設を)決め、後から説明するのでは」

 サダ子さんは最近、双葉町での日々がしきりに懐かしく思えるという。ヨモギやナデシコを摘んだこと、穏やかな町並み、遠い山々…。「双葉町が最終処分場になるなら、それ以上悲しいことはありません」。そう言って目を潤ませた。

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 住民らにこうした疑念が生じるのは、政府が放射性物質(放射能)に汚染されたがれきなど災害廃棄物の処理について、明確な道筋を示していないためだ。

 菅直人首相は27日、汚染廃棄物の中間貯蔵施設を福島県内に建設したいとする政府の意向を表明したが、場所や貯蔵方法などの具体的な説明はなかった。細野豪志原発事故担当相も「中間貯蔵施設がそのまま最終処分場に移行することはない。最終処分場は県外に造る」という方針を改めて示したが、細野氏は「私がこの問題に関わっている限りは」との留保を付けたままだ。こうした“逃げ道”を残すやり方が続く限り、地元住民らに政府への信頼は生まれない。

 住民らが疑念を抱く背景には別の理由もある。原発事故の対策を検討するために民主党が設置した「党原発事故影響対策プロジェクトチーム」(座長・荒井聡衆院議員)が8月3日にまとめた第1次報告だ。報告は、原発内にある使用済み核燃料の処理が難航する見通しを示し、「原発周辺での居住が長期間不可能な場合は、土地を国有化し、住民の移住を促す」と提言した。住民の多くは「核燃料処理のため」という理由で故郷が国有化され、結局は最終処分場の用地にされるのでは、と恐れている。


「最終処分場への布石では」 被災住民に募る疑念

 違う意見の住民も中にはいる。「私は故郷を最終処分場にしてもいいと思う。その方が国や被災者のためにも望ましい。周囲からの反発を恐れて口には出せないだけで、そう思っている人は少なくないのでは」。双葉町に隣接する大熊町の男性会社員(52)はそう打ち明けた。

 男性によると、原発周辺を最終処分場にすることで、汚染ごみを運搬する手間がなくなる。日本を含め世界中で処理が問題になっている使用済み核燃料を受け入れ、各国から対価を受け取り、補償や復興費に充てることも可能だという。

 「故郷が処分場にならないなら、それに越したことはない。だが現実として今後、原発周辺で子育てする人はいない。いずれ無人になる土地なら、他の地域に迷惑をかけるより、復興の礎にすべきだ」と話した。

 いずれにしても、政府が早く方針を示さないことには何も変わらないし、動かない。震災から半年が近づいている。政府はこれまで何をやってきたのか。

産経ニュース 2011.8.29 22:42 (連載は小野田雄一氏が担当)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110829/dst11082922450017-n1.htm


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