2011年11月14日月曜日

「まず除染」大合唱の陰でホンネを言えなくなった飯舘村の“移住希望”村民

除染か避難か――。東京電力・福島第一原発事故によって放射能汚染された市町村で住民同士の対立が起きている。

除染費用は巨額だ。国が2012年度までに計上した除染費用は計1兆1400億円。だが、ある経済産業省職員が首を振る。

「1兆1400億円という数字はこれから数十年かかる除染の費用のごく一部。しかも、細野豪志環境相・原発事故担当相が除染対象地域を年間追加被曝線量5ミリシーベルト以上から1ミリシーベルト以上に引き下げたため、除染作業で出てくる汚染土も当初の試算の2倍、5600万に膨らむ。これは東京ドーム約45杯分です。この汚染土を長期保管する中間貯蔵施設の建設・維持費も含めると、除染費用はおそらく数十兆円に膨らむはずです」

このため、汚染地では今、除染ビジネスフィーバーが起きている。建設、土木、住宅業界はもちろん、造園業、清掃業、果ては便利屋などの代行業までもが公金投入で巨額の受注が見込める除染ビジネスに参入しているのだ。

計画的避難区域に指定され、全住民が村外へと避難している福島県飯舘村の20代男性村民が悲鳴を上げる。

「村役場はもちろん、村の年配住民も『除染して村に戻ろう!』と言うのですが、僕ら若い世代の意見はちょっと違う。村外に移り住みたいという声も少なくないんです。だけど、『まずは除染』の大合唱の前に、それがなかなか言い出せない。避難という言葉も『ネガティブだから使うな、保養と呼べ!』と怒られる始末です」

9月28日に飯舘村が発表した除染計画によると、2年後までに宅地、5年後までに農地、そして、20年後までに森林を除染する。その概算費用総額は3224億円。飯舘村の人口は約6000人だから、ひとり当たり5000万円以上にもなる計算だ。前出の20代飯舘村民がポツリとこう漏らす。

「飯舘村の75%は森林です。ということは、村の4分の3のエリアは20年後まで除染ができないということ。年配の人はそれでもいいかもしれないけど、僕らはこれから結婚して子供もつくるんです。すべての除染が完了しないまま18年も住むなんて怖すぎる。それよりも、ひとりにつき5000万円もらって、ほかの土地でやり直したいというのが本音です。彼女とふたりで1億円。新しい土地で再起するには十分すぎる金額です。だけど、その本音が言えない。『おまえは村を愛していないのか! ふるさと再生に協力しないのか!』と叱られるから……」

福島市渡利地区などの除染を支援する神戸大大学院の山内知也教授が同情する。

「除染が終わっていないのに、20年近くも汚染された土地に住めというのはあまりに酷(こく)です。除染で故郷を再生したいという人々の気持ちはよく理解できますが、健康被害の危険性を考えれば、いっそ移住したいという若い人たちの言い分ももっともです。行政は除染だけでなく、避難や移住という選択肢も用意すべきでしょう」

同じような住民の対立は福島第一原発から20km圏内にすっぽりと入る浪江町でも起きている。全町民の帰還を目指す町長に対し、商工会の若手メンバーは全町移転を唱える。

故郷再生のかけ声のもと、除染という巨大プロジェクトが利権化し、住民を放射線量の高い土地に縛りつけてしまうようなら、それは本末転倒だろう。国は避難と移住の自由も認めるべきだ。

(取材・文/姜 誠)

週プレNEWS 2011/11/11
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20111111-00000301-playboyz-soci

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