2011年10月22日土曜日

マスコミが書かない東電経営・財務調査委員会報告のひどい欺瞞

10月3日に“東京電力に関する経営・財務調査委員会”が報告書を発表しました。新聞などでは、東電のリストラの深堀りや電気料金値上げなどの表面的な数字ばかりが大々的に報道されていましたが、一番大事な点が報道されていません。それは、この報告書は既得権益を擁護して賠償負担はすべて国民に回すという、欺瞞に満ちたものだということです。

リストラ上積みは東電再生のためだけに使われる
報告書を一読すると、被災者の賠償に要する金額を4兆5千億円程度と見積もる一方で、東電が自ら発表したコスト削減額(合計1兆2千億円)は不十分として、その倍に相当する2兆5千億円規模のコスト削減を提示しています。

この数字だけをみると、委員会は、民主党政権の「東電のリストラを徹底して国民負担を最小化する」という耳障りの良い言葉を忠実に守ろうとしているように見えます。しかし、報告書をよく読むと、実は全然違っており、むしろ東電を再生させることばかりに注力して、すべてのツケを国民に回そうとしていると言わざるを得ません。

報告書の中に以下のような表現があるのをご存知でしょうか。

「(東電の実態純資産を把握するにあたって)支援機構が東電に対して資金交付により援助を行なうことで、同額の収益認識が行なわれるとの前提を置いた上で、調整後連結純資産には、既に発生した原子力損害賠償費の他今後計上すべき原子力損害賠償引当金についても反映をさせない前提で作成している。」

「特別負担金額(筆者注:支援機構が東電に資金を融通した場合に、東電が将来分割で返済する金額)は…上記実態純資産の把握にあたっては考慮していない。」

平たく言えば、損害賠償の費用は支援機構が融通してくれるので、損害賠償費用を抜きにして東電のB/Sや今後の事業計画を考えると言っているのです。東電のリストラは上積みされたけど、それは被災者の損害賠償の原資を捻出するためのではなく、東電をピカピカの優良企業に再生させるために行なわれるのです。

実際、第3次補正予算が成立すれば、国は支援機構に5兆円の資金(交付国債)を提供するので、賠償費用はこれで全額賄えます。もし賠償費用が膨らんでも、支援機構法上政府は予算を無制限に投入できます。つまり、将来的に東電が返済する義務を負っているにしても、当面は賠償費用は政府が丸抱えするのです。

だからこそ、賠償費用が除外されると東電は資産超過の状態だから、減資や債権カットを通じて株主や債権者の負担を求めることも不要と結論付けています。

同じ失敗を繰り返す学習能力のない政権
もちろん、この方式がいいんだという役人的な屁理屈はいくらでも作れます。しかし、やはり国民感情としてはまったく納得できません。

原発の事故を起こしたのは東電という民間企業です。政府は東電に事故の責任があると明言しているのですから、それならまずは東電が自力でできる限りの賠償を行ない、それが無理になった(資産がゼロになった)段階で初めて政府が支援すべきですし、その段階では東電の株主や債権者も責任を負うのが筋ではないでしょうか。損害賠償費用を国が丸抱えする位なら、市場のルールに基づいて淡々と東電を一時国有化→破綻処理すべきではないでしょうか。

そうした当たり前のことをせずに、被災者を蚊帳の外に置いて東電の再生のためだけのリストラ上積みを行ない、かつ原発の再稼働か大幅な電気料金値上げが不可欠と主張している報告書は、東電の延命が至上命題の経産省・東電の意向に沿ったひどい内容と言わざるを得ません(ちなみに、報告書がこれだけ東電寄りの内容にも拘らず、リストラが厳し過ぎると不満を言っている東電の腐り切った体質には空いた口が塞がりませんが)。

かつ、東電のリストラ上積みがさも被災者のためであるかのように装って説明して報道させる経産省の姿勢もひどいと言わざるを得ません。

そして、よく考えると、今回の東電に対する政府の対応は、民主党政権のこれまでの二つの失政をまた繰り返そうとしていることに留意すべきです。

一つは、JAL再生の失敗です。JALの経営危機が騒がれたとき、政府は投融資で1兆円もの予算を投入しましたが、結局JALという民間企業がゾンビのように生き長らえただけで、後は何も変わらないどころか、自力で頑張っているANAに対抗して安売りを行なうなど民業を圧迫しているだけです。

ちなみに、JAL再生に関わった改革派の人たちは、“今はJALを生き延びさせるけど、将来的にはJALの国際線をANAと統合して世界の航空市場に通用するナショナルキャリアを作るんだ”と言っていました。しかし、その後時間が経って今はどうなったでしょう。稲盛会長という政治力を持つ守護神を得たJALはある程度力を取り戻し、今やそれを国内線と国際線に分割することなど不可能でしょう。

今回の東電への対応についても、関与している改革派の人たちは、“今はしょうがないけど、将来的に法的整理をやれるかもしれないし、東電はそのままでも発送電分離や料金算定方式の変更は勝ち取るんだ”としきりに言いますが、東電が今の苦境を乗り切って再生したら、得意の政治力を発揮してそうした改革を確実に潰すでしょう。JALのときと同じように東電が生き長らえるだけで、後は何も変わらない可能性の方が大きいのです。

小泉時代に金融担当大臣補佐官として不良債権処理に携わった経験から、大規模な改革ほど、問題が顕在化した段階で一気に進めないと失敗します。だからこそ、改革する気がない官僚に任せてはダメなのです。それはJALの再生の失敗からも明らかです。それなのに、委員会の運営を官僚任せにした結果が今回のひどい報告書であり、JALでの失敗が更にスケールアップした形で繰り返されるというのは、情けない限りです。

そして、もう一つの失政は、まさにこれから政権が進めようとしている復興増税です。野田政権は復興増税で国民に負担を求めながら、その一方で、朝霞の公務員宿舎の建設は始めるわ、公務員の給与は下げないわと、公務員の既得権益は維持しようとしました。

今回の東電への対応も、東電、株主、債権者の既得権益を維持しつつ、賠償費用は国が丸抱え、電気料金も大幅値上げとすべてのツケを国民に回そうとしている点で、復興増税とまったく同じ構図です。

しかし、そんないい加減な対応を国民が許すはずがありません。復興増税の方はどうなっているでしょうか。国民の怒りを買い、9月の世論調査では過半数が復興増税に賛成していたのに、先週末の世論調査では半数以上が復興増税に反対と答えました。政権は朝霞宿舎の建設凍結というその場凌ぎの対応を迫られるに至りました。

国民もメディアも怒るべき
民主党政権の2年は失政の連続ですが、東電への対応は最悪です。支援機構法の中身もひどかったですが、今回の報告書が示した対応の方向性は更にひどくなっています。

ここまで被災者の方々を置き去りにして、かつすべてのツケを国民に安直に回してまで、東電を中心にした既得権益を守ろうとする政治家と官僚の志の低さ、国民をバカにした姿勢には、吐き気すら感じます。原発事故の被災者の方々に報いるためにも、国民もメディアも今度こそ真剣に怒るべきではないでしょうか。

ダイアモンドオンライン 2011/10/07
http://diamond.jp/articles/-/14327

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