2011年9月22日木曜日

記者の目:福島住民の内部被ばく調査=須田桃子(大阪科学環境部)

 ◇一刻も早い実態把握が必要
東京電力福島第1原子力発電所の事故を受け、福島県は6月下旬から、住民の一部を対象にした内部被ばく調査を開始した。この調査に対し、複数の専門家が「遅すぎる」と指摘している。発生後の数日で大量に大気中に放出された放射性ヨウ素は半減期が短く、既に検出できなくなっているとみられるからだ。実効性ある対策を立てるためにも、政府は被ばくの実態を一刻も早く、正しく把握することに力を注ぐべきだ。

被ばくには、体の外から放射線を浴びる外部被ばくと、大気や飲食物に含まれる放射性物質を体内に取り込む内部被ばくがある。第1原発から出た主な放射性物質のうちヨウ素131は、半減期が8日と短く、3カ月で約2000分の1に減る。セシウム134(半減期2年)とセシウム137(同30年)も代謝や排せつにより約100日で体内から半減する。このため、内部被ばくは検査が遅れるほど正確な測定が難しくなる。

福島県飯舘村では当初から内部被ばくを心配する声があった。高い放射線量が観測されながら、国が避難要請を出したのは4月11日と遅く、住民の多くは最も大気中の放射性物質が多かった時期に村内にいたからだ。特に、ヨウ素131は3月12~15日ごろ、セシウム137の約10倍放出されたと推定されている。

 ◇時間が経過し、ヨウ素検出なし

住民グループが国や県などに内部被ばく検査を要望したが回答がなく、愛沢卓見さん(39)ら2人が5月末、自主的に検査を受けた。数千ベクレルのセシウムが検出されたが、ヨウ素131は検出されなかった。愛沢さんは「今後の医療ケアの資料となるデータを残したくて検査を受けたが、このままではヨウ素による内部被ばくはなかったことになってしまう」と懸念する。

県が同村などの住民約3320人を対象に内部被ばく検査を始めたのはその約1カ月後。最初に受けた109人の一部から、やはり微量のセシウムのみが検出され、ヨウ素は検出されなかった。

県は検査について、結果をみて安心してもらおうという狙いだと説明する。しかし、日数がたって検出されなかったからといって安心とは言えない。細胞のDNAが放射線によって傷つくと、がんの原因になる可能性があり、体内から放射性物質が消えても将来のリスクは残る。ヨウ素131は甲状腺にたまりやすく、チェルノブイリ原発事故では子供の甲状腺がんが増加した。他にも、今回の事故では、骨に蓄積しやすい放射性ストロンチウムが福島市などの土壌で微量ながら検出され、セシウムの放出量も多いなど、事態はチェルノブイリ以上に深刻とみる専門家もいる。

国立病院機構北海道がんセンターの西尾正道院長(放射線治療学)は「セシウムが検出された以上、ヨウ素も体内に取り込んだことは確かだ。事故直後に各地域で数人ずつでも内部被ばく量を測定すべきだった」と指摘する。

一方、低線量の被ばくについては、多くの専門家が「100ミリシーベルト以下では影響はみられない」などと説明してきた。だが、「この線量以下なら影響なし」という「しきい値」は見つかっていない。

被ばくの影響研究で最も信頼されているデータは、広島・長崎の原爆被爆者の半世紀以上にわたる疫学調査だが、対象者約8万7000人の8割の線量は100ミリシーベルト未満だ。この調査では、線量の多さに比例してがんなどの死亡率が高まっている。

放射線医学総合研究所の元主任研究官、崎山比早子さん(腫瘍細胞生物学)は「国際的に、しきい値はないという考え方が主流になっている」と説明。「低線量被ばくの影響があると示すためには非常に大規模な(集団の)調査が必要なので、疫学調査では解答が出ない」と話す。

1ミリシーベルト程度の放射線でも、人の細胞に将来がんになりうる損傷を与えるという報告もある。現在の労災基準が作られた76年以降、原発作業中の放射線被ばくによる労災が認められた10件(いずれもがんを発症)のうち9件は累積線量が100ミリシーベルト以下で、最低は5・2ミリシーベルトだ。

 ◇濃度試算も使い、吸収量の推定を

調査の遅れは取り戻せないが、今からでもできることはある。鎌田七男・広島大名誉教授(放射線生物学)は「緊急時迅速放射能影響予測システム」(SPEEDI)によるヨウ素131の空気中の濃度分布の試算結果と実測値、さらに住民の行動記録から、呼吸による取り込み分の推定は可能だと考える。国や県はこうした提案に耳を傾け、即刻、本格的な調査に乗り出すべきだ。いま必要なのは、根拠のない「安心」ではない。

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ご意見をお寄せください。〒100-8051毎日新聞「記者の目」係/kishanome@mainichi.co.jp

毎日新聞 2011/09/22 (引用)
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20110907ddm004070182000c.html

2011年9月21日水曜日

バーで泥酔…菅前首相にからまれた夜

  8月26日に首相官邸で行われた菅直人前首相の退陣表明を間近で見た。菅氏の記者会見を生で聞くのは初めてだった。  「やるべきことはやったという思いだ」「内閣としては一定の達成感を感じている」

10メートルほど先の演壇に立つ菅氏。最後の晴れ舞台とでも勘違いしているのか光沢感のある背広をまとい、自画自賛を連発する。白けた気分で聞くうちに、ある夜の記憶がよみがえった。

記事本文の続き 日本の首相、すなわち自衛隊の「最高指揮官」を務めるに足る人格も品性も持ち合わせていないことを物語る記憶だ。

ここまで日本をボロボロに壊し、退陣会見でも失政を認める反省の弁もなかった。もはや忌まわしい記憶を公にすることに遠慮はいらないだろう。


■泥酔状態でバーに

日記をつけているわけではないが、平成14年で間違いないと思う。知人に連れられ、東京・有楽町の古いバーのカウンターで飲んでいた。深夜で、客はわれわれ2人だけ。入り口の扉が開き、1人の男が入ってきた。菅氏その人だった。

ふらつく足どりで店の奥へと進んでくる。ひとめで泥酔状態だとわかった。目もすわっていた。

酒場で最も近づきたくない手合だが、運悪く知人と菅氏は顔見知りだった。さらに厄介なことに私の隣の椅子に腰を落ち着けてしまった。

「おい、岡山。おまえ何を取材しているんだ」。私の出身が岡山県で職業は新聞記者だと告げると、肩に手を回し揺すりながら、何度もそう繰り返した。
岡山は菅氏自身の本籍地で、伸子夫人の出身地でもある。親近感を抱いていただいたのはいいが、あまりにもしつこかった。その証拠にそれ以外の言葉は覚えていない。というか、言葉になっていなかった。


■からんだあげく退散

ろれつが回らないくせに執拗(しつよう)に同じ言葉を繰り返し、こちらが説明しようにも、きちんと耳を傾けているようにも見えなかった。付き合わされるのは時間の無駄だし、我慢の限界に近づいてもきた。
「あの薬害エイズ問題で国民の心をつかみ、名をはせた政治家なのか」。そんな思いも頭の中をめぐっていた。
「いいかげんにしてもらえませんか」。意を決して伝えた。すると菅氏は露骨に不機嫌になり、しばらくすると店を出ていってしまった。
「下手を打ったな」。再び2人きりになった店で知人がそうつぶやいた。菅氏を不機嫌にさせた私が悪いという意味らしかった。
ただ、こちらから菅氏に語りかけたことはなく、一方的にからまれただけだった。初対面の人にここまで不快な思いをさせられた経験はそうはない。
もっとも政治家といえども酔いたい夜もあるだろうし、虫のいどころが悪いときもあろう。だが、ここまでタチの悪い客ぶりをさらけ出してしまうとは、とあぜんとした。最初の民主党代表時代の女性スキャンダルに際し、伸子夫人が「あなたは脇が甘いのよ」と叱責したのもうなずける。


■官邸の主としても

昨年6月に菅氏が首相に就任してからも、この夜のことは時折思い出した。とりわけ東日本大震災と東電福島第1原発事故が発生して以降、思い出す頻度は増した。首相官邸の異様な光景が伝えられたからだ。
発生から1カ月たち、首相官邸の5階にある執務室は「開かずの扉」と呼ばれるようになっていた。原発対応をめぐり、政治家であろうと官僚であろうと、だれかれかまわず怒鳴り散らした結果、だれも執務室に寄りつかなくなったためだという。「肌感覚」でわかる気がした。
逆ギレすることも多かった。菅氏の指示が不十分で事態収束に手間取っているにもかかわらず、「指示はとっくに出した。なぜ進まないんだ」と不満を爆発させることもあった。「下手を打った」と知人に指摘された私も、逆ギレされたとの思いが強い。

不機嫌になると、さっさと店を後にしただけに「逃げ足」の速さも目の当たりにしている。

首相就任記者会見で自らの内閣を幕末の志士、高杉晋作にちなみ、「奇兵隊内閣」と命名し、その理由として「高杉は逃げるときも速いし、攻めるときも速い」と先に逃げ足に言及した菅氏。番記者のぶらさがり取材を1日2回から1回に減らし、大震災発生後は全く応じなかった。これでは「逃げ菅」と呼ばれても仕方あるまい。

「とりわけ自衛隊が国家、国民のために存在するという本義を全国民に示してくれたことは、指揮官として感無量だ」。退陣表明した記者会見で、菅氏は大震災と原発事故への対応に触れ、自衛隊の最高指揮官であることを唐突に強調した。

しかし、この言葉を「感無量」と受け止めた自衛官は皆無だろう。逆に、「改めて法律を調べたら自衛隊に対する最高の指揮監督権を有していた」という菅氏の「迷言」がよみがえり、多くの自衛官が白々しい気分になったに違いない。

よもやあるまいとは思うが、菅氏から「自衛官を慰労したい」と誘いを受けることがあったとしても、酒席をともにすることだけは避けるべきだと強調しておきたい。 (半沢尚久)

IZA 防衛オフレコ放談 2011/09/11 14:08 (引用)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/527433/

2011年9月17日土曜日

東日本大震災:幼稚園除染費、保護者負担に賛否--柏の一部私立 /千葉

 ◇経営圧迫と園側悲鳴


 東京電力福島第1原発事故で放射線量が比較的高い柏市で、一部の私立幼稚園が除染費用の部分負担を保護者に求めた。保護者から「東電に請求すべきだ」との声が出る一方、幼稚園は「東電が払うか分からない中、園児の安全を優先した。予想外の臨時出費で、経営を圧迫している」と悲鳴を上げる。

 柏市私立幼稚園協会の溜川良次(ためかわよしつぐ)会長によると、夏休み前に協会役員から「2学期はきれいな環境で保育したい」と意見が出た。徹底した除染には数百万円単位の費用がかかるため、臨時役員会で協力金として「園児1人につき1万円」の負担を求め、強制しない方針を確認。各園から保護者に出す手紙のひな型を協会が作成し、保護者に「協力金に同意する」「同意しない」の意思表示を求めることにした。

 毎日新聞が協会加盟の全33園に取材すると、27園は「負担を求めない」と回答。4園は「ノーコメント」「答えられる者がいない」、1園は「検討中」だった。溜川会長は自ら経営する園について「3000円程度お願いしたい」と話した。

 「ノーコメント」のうち1園は、9月に依頼の手紙を出していた。保護者らは「きょうだい2人が通う家は2万円の負担。でも自分だけ拒否できない」「園も私たちも被害者なのに納得できない。東電が払うのが当然」と不満を漏らす。

 柏市の除染費用補助は1園当たり上限20万円。残り全額を自己負担する27園は「保護者と一緒に除染した。費用まで請求できない」「カンパの申し出も、すべて断った。矛先を保護者に求めるべきではない」と話す。「東電相手に裁判を起こす費用もなく、泣き寝入り状態。余裕のない園が保護者に協力を求めたことは理解できる」と同情的な意見も多かった。

 東電千葉補償相談センターは「国の原子力損害賠償紛争審査会の中間指針では補償対象外。審査会の今後の議論を踏まえて対応したい」としている。【早川健人】

毎日新聞 2011/09/17 (引用)
http://mainichi.jp/area/chiba/news/20110917ddlk12040172000c.html

2011年9月16日金曜日

古賀茂明氏に対し枝野幸男経産大臣が「退職の準備をはじめるように」と指示

東京電力の改革案を提唱したため経済産業省で仕事を与えられず幽閉されている骨太の官僚、古賀茂明さんに、枝野経産大臣が退職準備の指示を出しました。


枝野幸男氏に改革の意思はないのか

古賀茂明さんの知人である企業経営者によれば、古賀さんは昨日、枝野新経産大臣に「このまま仕事を与えてもらえないなら、月内に退職する」との趣旨のメールを出した。これに対し本日15日、枝野大臣から間接的に「退職手続きを進めるように」という通告がなされたとのことです。

先日は橋下徹大阪府知事の率いる「大阪維新の会」から「大阪府知事」への出馬を打診された古賀茂明氏ですが大阪府知事への立候補は断ったと報じられています。今後についてどうするかは、まだわからないと本人は述べているそうです。

企業再生や公務員改革に取り組み、さらには原発事故後いちはやく東電再生案「古賀プラン」を提示した古賀氏を就任早々切り捨てる枝野幸男経済産業相。わずか数日で官僚に取り込まれ、はやくも改革の意思のないところを見せつけたかっこうです。


正義が負ける、今の日本

それにしても、「どうか仕事を与えてください」という部下に「職務を与えない」とは一体どういうことなんでしょうか。公務員改革と電力改革は今、もっともわたしたちが注目している政治的な課題のひとつでもあります。その課題に対する答えを提示できないばかりではなく、そのために活躍する人材を冷遇するとは。人事は政治家が官僚に対して行使できる最大の権限ですが、それを行使できずに、なにをしようというのでしょうか。朝霞の公務員宿舎問題に代表される「事業仕分けが実は無意味だった」という問題とあわせて、枝野大臣には一体なにを考えているのか公の場で説明して欲しいものです。

古賀茂明(こが・しげあき)さんプロフィール
1955年、東京都に生まれる。経済産業省大臣官房付。1980年、東京大学法学部を卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2008年、国家公務員制度改革推進本部事務局審議官に就任、急進的改革を提議。2009年末、審議官退任後も、省益を超えた政策を発信し、公務員制度改革の必要性を訴え続けている。

ガジェット通信 2011.09.15 17:25:35
http://getnews.jp/archives/141487

2011年9月15日木曜日

コストカットも徹底しないまま引き上げに走る東電菅首相が残した「電力料金値上げ」という置き土産 ようやく退陣したけれど/町田 徹

 退陣の条件としていた特例公債法(赤字国債発行法)と再生可能エネルギー特別措置法(再生可能エネルギー買い取り法)の成立を受けて、菅直人首相が先週末(8月26日)、ようやく辞任を正式に表明。事実上の次期首相を選ぶ民主党代表選も終わった。

 だが、新たな首相選びを新たな船出と喜んでばかりもいられない。

 26日に成立した2法と、8月初めに成立した原子力損害賠償支援機構法は、大変な負の置き土産と言わざるを得ない。財政赤字の垂れ流しと電気料金の引き上げに拍車をかけて、将来に大きな禍根を残すことは確実だ。

 第1弾として、福島第1原子力発電所の賠償を理由に、東京電力が近く本格的な値上げを表明する見通し。遠からず、再生可能エネルギー振興のための電気料金の引き上げと、日本政府に対する信用不安が追い打ちをかけることも予想される。


*** 菅首相が残した電力料金値上げというツケ ***
「与えられた厳しい環境の下で、やるべき事はやった。

 大震災からの復旧・復興、原発事故の収束、社会保障と税の一体改革など、内閣の仕事は確実に前進しています。楽観的な性格かもしれませんが、一定の達成感を感じているところです」---。

 これほど国民感情を無視した独りよがりの退陣記者会見も珍しいだろう。菅首相は、26日夜に官邸で開いた記者会見の冒頭で、 自らの政権運営をこう自画自賛した。



 しかし、内閣支持率は冷徹だ。政権が発足した時点では66%もあったのに、わずか1年3ヵ月前の間に15%まで下がってしまった。際限なく繰り返された失政に対する国民の不満は爆発寸前だったと言うべきだろう。

 こうした世論に反論するかのように、首相は会見の場でも、「在任期間中の活動を歴史がどう評価するかは後世の人々の判断に委ねたいと思います」と抗弁した。

 しかし、すでに駄目というレッテルを貼られた首相の評価が、将来、劇的に改善するとは考えにくい。

 そして、菅首相が退陣したからといって、その失政が解消されるわけではない。むしろ、失政の重いツケが回ってくるのは、これからなのである。

 その第一は、1家庭当たり単純平均で月額700~800円に及ぶとの見方も出ている東電の値上げ問題である。 

 この値上げに大義名分を与えたのは、首相が退陣の条件とした3法案の中で、最も早く成立した原子力損害賠償支援機構法(8月3日成立)だ。

 本コラムでも何度か指摘したが、この法案は、福島原発事故の賠償を支援する機構の設置を定めたもの。機構に対して、国や他の電力会社が資金を提供し、機構が東電の賠償に必要な援助をして、東電は数年以上かけて返済していく仕組みとなっている。

 同法の表向きの立法趣旨は、賠償額が、原子力損害の賠償に関する法律に規定された保険金額(1200億円)を超える事態に備えて、1.賠償の迅速かつ適正な実施、2.電気の安定供給---を確保することという。

 しかし、実際の同法の目的条項には、「その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営を図る」という文言も盛り込まれており、機構が事故の収束のための資金や廃炉のための費用を供出することまで可能とされる。

 それだけではない。首を傾げたくなる話のオンパレードなのだ。よく言われるように、電力の安定供給とは無関係であるにもかかわらず、東電を破綻させないことを最大の目標としているのだ。加えて、長年にわたって先進国の中で1、2を争う高い電気料金を一般国民や企業から徴収して溜め込んだ分厚い資産の拠出義務すら明記しないまま、機構を通じた資本注入や資金援助に道を開いている。



 これにより、政府・経済産業省は監督責任を免れるし、安易に貸し込んできた金融機関の焦げ付きも回避できる仕組みとなっているのである。

 負うべき責任を免れる人がいれば、そのツケを回される人が出てくることは、誰でも容易に推察できる話だ。その犠牲者が、庶民や中小企業なのである。

 東電は機構から資金援助を受けるために、10月にも、機構に対して、援助の条件となっている「特別事業計画」を提出する見通し。そこに、東電が値上げを盛り込んでくるのが確実とみられているのだ。

 現時点では、その値上げ計画を正確に予測することは難しいが、関係者によると、この法案を7月に閣議決定して国会に提出した時点で、菅内閣が見込んでいた賠償額は総額5兆円強。これを、東電と他の電力会社にそれぞれ、毎年2000億円ずつ負担させて、13年で回収するプランを密かに練っていたという。


*** 徹底した自助努力もなく値上げ ***
 仮に、今年度の東電の最終赤字が3000億円程度に達するとすれば、東電は、負担金の2000億円とあわせて5000億円の増収策が必要になる。そして、東電がすでに十分な経費削減策を実施済みとして、値上げで全額を賄う計画を策定し、その際に東電が販売できる電力を年間2500億kw/h程度と想定すると、1kw/hにつき2円の値上げが必要になる。

 これを、単純平均で一般家庭の負担を試算すれば、月額700~800円の値上げになるというのだ。つまり、年間の合計では、1家庭につき1万円前後の値上げが確実という。この値上げは、原油や液化天然ガス(LNG)の値上げを反映して自動的に引き上げるサーチャージとは別に、加算されるものである。

 現在までに取材した範囲では、東電以外の電力会社は、内部留保を取り崩して1、2年は値上げをしない方針とみられる。だが、これは単なる先送りに過ぎない。いずれ値上げが必要になるので、東電管内以外に住む国民も「対岸の火事」と呑気に構えてはいられない。 

 そもそも福島原発事故の賠償が総額5兆円強で収まるという菅政権の想定が眉唾ものだ。賠償が2倍の10兆円になれば国民負担も2倍に、賠償が4倍の20兆円になれば国民負担も4倍に膨らむことは言うまでもない。

 それだけに、機構には、東電の特別事業計画を精査して、過去に蓄積した資産の厳正かつ客観的な評価と、その大胆な売却を迫ってほしいものである。もちろん、そこには、電気料金の高騰の歯止めになると期待される発電所の一般企業への売却による発電業の競争促進などの施策も含めるべきだろう。



 また、2011年第1四半期(4~6月期)に措置した分で十分とせず、新たに徹底したリストラクチャリングや経費の削減を迫ることも必要だ。そもそも東電は、第1四半期の決算で、燃料費の増加などに伴い経常費用が1000億円増えたが、人件費の圧縮などの合理化が不十分で630億円の経常赤字を出している。機構からの交付金が入ったとしても、自助努力が甘く、第1四半期だけで5717億円に達した最終赤字が埋まるとは考えにくい状況にある。

 しかし、菅政権が成立を急いだ今回の法律は、東電に、そうした自助努力の徹底を義務づけるものとなっておらず、ザル法そのもの。今後、数年以上にわたって、国民負担の増大は避けられない見通しだ。

 厄介なのは、今回の賠償のための値上げが、今後長年にわたって相次ぐと予想される電力料金の引き上げの始まりに過ぎないという点である。

 すでに述べたように、福島原発の賠償が膨らめば、それだけ国民負担が膨らむのは明らかだ。ところが、菅首相が退陣の条件にあげた3法のうち再生可能エネルギー特別措置法も、大幅な電力料金の引き上げを呼ぶものに他ならない。


*** コスト無視の再生可能エネルギーというイリュージョン ***
 政府のエネルギー・環境会議によると、1kw/hの発電コストは、原子力が5~6円、石炭火力が5~7円、液化天然ガス(LNG)が6~7円、大規模水力が8~13円と比較的低コストなのに対して、風力は11~26円、地熱は11~27円、バイオマスは12~41円、石油火力は14~17円、太陽光は37~46円と明らかに割高となっている。

 そして、再生可能エネルギー特別措置法は、福島原発事故の直前の3月11日午前に閣議決定されたもの。というのは、そもそもの法制化の狙いが、CO2の排出削減を狙った昨年7月決定のエネルギー基本計画の具現化にあったからだ。それゆえ、原発事故以前は29%に過ぎなかった原発依存度を53%と大幅に引き上げることによって電力料金を引き下げて、その余力で風力、地熱、バイオマス、太陽光などを高値で買い取り、それらへの依存度も引き上げようというものに他ならない。

 原発事故によって、原発依存度の引き上げによる電力コスト引き下げという構想がおりゅージョン(幻想)であることが明らかになった中で、まだコストの高い再生可能エネルギーを闇雲に振興することは誤った政策と言わざるを得ないのだ。ソフトバンクの孫正義社長らの陳情を真に受けて、コスト無視の再生可能エネルギー振興に傾注した菅首相の拘りは、経済の空洞化や大量失業のリスクを内包している。

 さらに、最後にもう一つ。復興財源ひとつとっても増税を避けて通れないことは明らかなのに、菅政権は復興対策基本方針にさえ明確な増税方針を盛り込めないまま、今年度の予算関連法案の一つとして積み残しになってていた特例公債法(赤字国債発行法)の成立に拘った。このその場しのぎは、ギリシアなどの南欧諸国、米国の例を引くまでもなく深刻な問題だ。



 同法の成立を待たずに、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは24日、日本国債の格付けを1段階引き下げて、最上位から数えて4番目の「Aa3」(ダブルAマイナスに相当)に落としたと発表した。対照的に、米国は、債務問題で揺れたものの、依然としてムーディーズで最上位の「Aaa」の格付けを保持している。また、財政危機に直面するイタリアやスペインの格付けは「Aa2」だ。これに対し、日本の格付けは両国より下位に落ち込んだのである。

 将来、さらに日本の財政改革の実行力に対する疑念が広がれば、日本経済や日本社会に取って取り返しのつかない事態が起きても不思議のない状況が、そこには存在する。

 菅首相の後を継ぐ首相は、大変な負の遺産を背負い込んで船出をすることになる。

現代ビジネス 2011/08/30 (引用)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/17607

2011年9月14日水曜日

泊原発:北電社員「やらせ」関与認める 増設議論で00年、賛成派に協力依頼

 北海道電力泊原発3号機(北海道泊村)増設の賛否を巡り、00年3月に泊村で開かれた道主催の「道民のご意見を聴く会」で、複数の北電社員が住民に賛成の意見表明を依頼したと認めていることが、北電の内部調査で分かった。北電では同3号機のプルサーマル計画を巡る08年のシンポジウムでも社員を動員する「やらせ」問題が発覚しているが、住民への多数派工作について社員が直接関与を認めるのは初めて。

 北電では現在、有識者らの第三者委員会が08年のシンポジウムを対象に「やらせ」問題の調査をしており、10月上旬にも取りまとめられる予定の調査結果にも影響を与えそう。北電は「今度の調査については、第三者委員会の意向を踏まえて対応していきたい」(広報部)と話している。

 内部調査によると、証言したのは泊原子力事務所渉外課に当時勤務した社員。泊村など地元4町村向けの広報などを担当していた課員の5人から聞き取り調査したところ、複数の社員が普段から交流のあった賛成派の住民に対し、事前に「日頃の思いを述べてほしい」と意見を表明するよう依頼したり、参加する住民に「原発の必要性などの理解を深めてもらう」との趣旨で原発関連や電力事情を説明した資料を渡したりしたという。

 関与を認めた社員は内部調査に対し、いずれも「日常業務の一環という認識だった」と説明。「『賛成派を参加させろ』といった会社の指示はなかった」と、経営陣ら上層部の関与については否定しているという。

 「聴く会」は00年3月に開催。道が事前に会場で意見表明を希望した40人のうち抽選で26人を選んだ。会を傍聴したという泊村の60代女性は「当時は『やらせ』があるとは感じなかったが、だまされた思い。原発に賛成か反対かは別にしても、北電のやり方は住民をないがしろにしている」と憤る。

 泊村の牧野浩臣村長は「過去のことだからというのではなく、社員倫理を含め、社内の体制をしっかりとし、この問題に片を付けてほしい」と苦言を呈す。道の高原陽二副知事は「仮に(やらせ指示が)あったとすれば遺憾だ。北電にはしっかりと調査してもらい、その報告を待ちたい」と話した。【吉井理記、岸川弘明、坂井友子、高山純二】

毎日新聞 2011年9月14日 2時30分
http://mainichi.jp/hokkaido/news/20110914hog00m040003000c.html


枝野経産相:原発賠償 東電取引銀行や株主も負担が原則

 枝野幸男経済産業相は13日の閣議後会見で、東京電力福島第1原発事故の賠償を巡り、政府が東電を資金支援する際に「本来の市場ルールを超えて、ステークホルダー(利害関係者)が利益を受けることになってはいけない」と述べ、東電の取引銀行や株主も一定の負担をするのが原則との考えを示した。

枝野経産相は「国民の税金を使って支援する目的は、原発事故収束と賠償、電力供給の確保で、債権者や株主の保護は入っていない。支援がなかった場合に(破綻などで)生じたであろう負担は当然していただくのが市場のルールだ」と強調した。具体的な負担方法は明言しなかった。

枝野経産相は、菅内閣で官房長官を務めていた5月の会見で、東電の取引銀行に債権放棄や金利減免などの措置がなくても国民の理解が得られるかと問われ、「到底得られないだろう」と述べ、銀行側にも必要に応じて負担を促す考えを示していた。【和田憲二】

毎日新聞 2011年9月13日 12時51分
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110913k0000e010073000c.html